―美佐島で迎える“二つ目の潜行―
終わったはずの旅が、
ふいに続き始める。
そろそろ能生の季節、だよね!
うん。そろそろ蟹の町が
ざわっと呼び始める頃だね。
能生の気配が近づくと、旅の空気が自然と身体の奥で動き出す。
同時に、別の記憶がすっと浮かび上がる。
どうしたの?なんかニヤニヤしてる
思い出したんだよ。
……十日町、
もうひとつ“潜る場所”が
あるって話。
秋旅の最終話で残っていた、あのひと言。
時間がなくて置き去りにしていたのに、終わった感じはしなかった。
えっ、それって!?
うん、美佐島駅。
行く!いきたい!!
やっぱりそう来ると思った。
思い出した、ではなく。
―続きが再び動き出した瞬間。
能生に行っちゃうと、
また時間が消えるからさ。
じゃあ今のうち!今だよね!!
そう。今度こそ“潜り直し”へ。
第2もぐり、確定っ!
車は市街地を離れ、田んぼの黄金色へ溶け込む道へ。季節はすでに“地上の奥”を静かに染め始めている。
早く見つけたい……どこ?
どこ?どこー?
焦ると見つからないやつだよ、
こういうのは。
川のきらめき、風にゆらぐ稲穂、山の輪郭に深さの影が少しずつ混じりはじめる。
……あ! あれじゃない!?
正解。目がいいね。






道の先、景色の余白にぽつんと置かれた静けさ。駅というより“境界の入口”のような存在感。
なんだろ、隠れてるみたいなのに、
ちゃんと呼ばれてる感じ。
ここは地上じゃなくて“前置き”。
まだ扉の手前
車を降りると、空気の粒が少しだけ湿度を増す。建物が近づくほど、景色のほうが一段静かになる。
もう入っていい?
まだここは“世界の外側”。
潜る前の余韻も味わって。
外観の輪郭がはっきり見えた瞬間、
胸の奥で何かが静かにカチッと噛み合う。




……やっぱり、
“入り口”じゃなくて“境目”だ。
そう。ここを越えたら、
もう地上とは別物になる。
扉の目の前――旅ではなく、
二つ目の潜行の始まり。
つづく(後編へ)









