初秋の十日町 十日町のモグラ駅へ① ー 美佐島で迎える“二つ目の潜行

初秋の十日町
十日町のモグラ駅へ②

―地下で“出会う”列車―

目次
seren

……よし、開けるよ!

どうぞ。今日は迷いゼロだね。

扉が軽い音を立てて開く。
その瞬間、空気の温度が
ひと段階だけ深くなる。
背後にあった景色よりも、
前へ続く“静けさ”の方に重心が移る。
seren

わ……空気がちがう。

ここからは“外”じゃなくて“下”。

扉ではなく、“方向”が変わる瞬間。

階段の一段目を踏み出すと、光の届き方がふっと変わる。まだ明るいのに、世界の向きが静かに裏返る。

seren

なんか、もう別の場所に
入っちゃったみたい。

まだ上段。ここから
さらに“馴染んでいく”よ。

深さではなく、ゆっくり距離が近づいてくる感覚。

段を降りるごとに、隔たるのではなく 溶けていく 感覚。地下の明るさが“淡い安心”として迎え入れてくれる。

seren

……落ちる感じじゃない。
包まれる感じ。

それが美佐島の深さ。
“怖さ”じゃなく“距離”なんだ。

やがて階段は終わりに近づき、そこには思いのほか明るい待合室。

seren

ほんとだ、明るい。
ここからホーム?

うん。もう一枚、
世界が薄くなる先。

見えないのに、すでに届き始めている存在。
待つ場所ではなく、“出会う前の静けさ”。
ここから先は、“見る”じゃなく“遭遇する”。

通路の奥、まだ見えない“何か”の気配だけが先にこちらへ伸びてくる。その途端——低い金属の震えが床下を撫でた。

seren

……来る?

来る。

姿より先に、速度がやってくる。風の前触れが、距離を押し返してくる。

seren

─―来る、来る!!

ホームの前に踏み出した瞬間、
空気の厚みが一気に変わる。
見えていないのに、
迫力だけがすでに“目の前”。
次の刹那——光の帯が弾け、
風が一気に駆け抜ける。
seren

わっっ!!

世界が少しだけこちら側へ踏み出してくる瞬間。

近い。ただ近い、ではない。“全身に来る近さ”。通過ではなく 遭遇。速度が身体にぶつかって、熱の線だけが残る。

美佐島は“深く潜る駅”じゃなくて、
“出会いに降りてくる駅”だから。

速度が目の前まで押し寄せてくる。距離そのものが体験。

電車の音が遠ざかっても、胸の中だけ余韻が遅れて鳴り続けている。

それはもうワクワクじゃない。
——次の駅の火種。

静寂を背にしても、余韻だけがまだ胸の中で鳴っている。
ここは終わりじゃない。“次の扉”へつながる始まり。
seren

三つ目、もう見えてるよね?

ここは終着じゃない、合図。
続く先は、
さらに深い“本丸”へ。
三駅目——土合へ。
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