伊勢角屋麦酒 × Yuya Boys Collaboration/ねこさんびき/TDH Opaque Triple IPA

土合駅で見つけた、
静かな深さ

朝の空気は、少しだけ湿っていた。きっかけは、何気なく眺めていたSNS。
そこにあった「MOGURA BEER CAMP」の文字。群馬・みなかみ町。“日本一のモグラ駅”と呼ばれる場所で開かれる、ビアキャンプフェス。ビール好きの相棒は、迷うことなく頷いた。そして、いつの間にか——セレンも。

気づけば、行き先は決まっていた。電車に揺られて、土合駅へ。降り立った瞬間、ふと感じた違和感。これまで訪れた地下の駅とは、どこか違う。もっと深く、静かで、少しだけ圧のある空気。しばらく歩いて、階段の前に立つ。

seren

……行くの?

せっかくだしね

段差のリズム、ひんやりとした空気、足音の反響。深さは、数字以上に身体に残る。やがてたどり着いた地下ホームは、音が吸い込まれるような静けさに包まれていた。列車が通り過ぎる瞬間、風が一気に吹き抜ける。その一瞬だけ、世界が動いた気がした。

外に出ると、雨が静かに降っていた。時間にはまだ余裕がある。そのまま谷川岳へ向かうことにする。土合駅からロープウェイ乗り場まで、ゆっくり歩く。湯檜曽川の流れを横目に、気づけば山のふもと。

ゴンドラに乗り込み、空へと運ばれていく。足元の景色はゆっくりと遠ざかり、やがて霧の中へと溶けていった。
さっきまでいた場所が、少しずつ現実から切り離されていくような感覚。谷川岳は、輪郭をぼかしながら静かにそこにあった。

seren

さっきまで、あんなに
深いところにいたのにね

ほんとだね。
なんか……
別の場所みたいだ

seren

上と下で、
こんなに違うんだね

うん。でも、どっちも
同じ場所のはずなのに
不思議だね

ゴンドラは、何もなかったかのように進み続けていた。風の音だけが、ゆっくりと耳に残る。天神平に着くと、視界は白くやわらかく広がっていた。遠くまで見渡せるはずの景色も、霧に包まれてどこか曖昧になる。その分だけ、空気の静けさが際立っていた。ビューテラスに入り、名物のパングラタンをいただく。立ちのぼる湯気と、ほんのりとした香ばしさ。ひと口食べると、冷えていた身体にじんわりと熱が戻ってくる。

こういうの、いいよね

seren

うん。なんか……
戻ってきた感じがする

どこから?

seren

さっきの、あの感じから

セレンは少しだけ首をかしげて、何も言わずに外を見た。
その視線の先は、白くやわらいだままだった。休憩を終えて、再びロープウェイへ。来たときと同じはずの景色が、どこか違って見える。霧は少しだけ濃くなり、世界をやわらかく包み込んでいた。静かな空中散歩のまま、ゆっくりと土合駅へ戻っていく。

雨足は少し強まり、あたりは霧に包まれていた。さっきと同じ場所のはずなのに、どこか違って見える。そのまま「MOGURA BEER CAMP」へ。小雨の中、グラスを片手に過ごす時間。国内各地のビールが並び、それぞれに違う香りと温度を持っていた。気づけば、少しだけ長居をしていた。雨が上がり、空気がゆるむ。そろそろ帰る時間。近くのカフェに入り、静かに余韻を整える。

seren

楽しかったね。
なんか……
いい旅だった気がする

うん。静けさとか、風とか、
深さとか……
全部違うはずなのに、
どこか似てた気がするんだよね

seren

……たしかに。不思議だね

ふと、どうしてこんな場所ばかりを選んできたのかと考える。少しだけ言葉にしようとして、やめる。
うまく形にならないまま、そのまま外へと視線を戻す。雨上がりの空は、ほんの少しだけ明るくなっていた。気づけば、地下の駅をいくつも歩いていた。

それぞれに理由があったわけでもないのに、なぜか、同じような場所に惹かれていた。あの静けさも、あの風も、あの深さも——どこかで、何かに出会う気がしていたのかもしれない。地上に戻ると、空気はやわらかく広がっていた。ほんの少しだけ、世界の見え方が変わった気がする。理由は、まだうまく言えない。でも、きっと——あとから名前がつくような気がした。

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