ある日、ちょっぴり勇気を出して
お家の外へ飛び出したセレン。
風のにおいを胸いっぱいに吸い込みながら、
いつもの道を、少しだけ遠くまで歩いてみた。
すると―
空き地にいる“おばちゃん猫”が、
気になる話をこっそり教えてくれたのです。
それは、ちょっと不思議で、
どこか心がそわそわするような、
いつもとは違う冒険のはじまりの話。
昔ね、この辺りに突然現れた
猫がいたんだよ。
ずっと昔の話だね。
よそから来たらしくて、
人を探してるって言って、
毎晩、公園で寝泊まり
してたらしいのさ。
人を……探してる猫?
セレンはびっくりして、おばちゃん猫の顔を見つめました。
でもね、理由を聞いても変なこと
ばかり言うもんだから、
そのうち誰も寄りつかなく
なったんだって。
その猫、言ってたんだよ。
『私はもともと人間だった』って。
えっ……!
どうしても“想いを伝えたい人”に
会わなくちゃいけない、
って真剣だった。
カギしっぽが関係している
とも言ってたね。
それって……もしかして、
猫と……入れ替わったってこと?
そうらしいよ。
その猫が言うには―
“猫に話しかけられて
返事をしたら、すっと
入れ替わってしまった”
……ってね。
セレンのしっぽが小さく震えた。
……それ、本当なの?
さあ、どうだかねぇ。でも、
最後にこんなことを言ってたよ。
偶然の出会いが、運命を変える
そう言って、
笑ってたんだけどね……
なんだか、怖くもあってさ。
風がそよいで、草むらが音を立てる。セレンの胸の奥が、ふわっとざわめいた。
その猫はそれから姿を
見せなくなった。
目的が叶ったのかもしれないね。
空はすっかり夕暮れ色になっていました。
セレンは名残惜しそうに立ち上がりながら、
そっと言いました。
おばちゃんに会えてよかった。
今日はありがとう。
いつでもおいで。
でも……外の世界は、
見た目よりずっと奥が深いよ。
気をつけてお行き。
家の前に戻ると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえました。
セレンを見つけた人は、目に涙を浮かべて優しく抱きしめてくれました。
申し訳ない気持ちと、ほんの少しの安心。
でもその時、セレンの中に新しい感覚が生まれていました。
わたし、人の言葉が……
ちゃんとわかる
それに……
話すこともできるかもしれない
次の瞬間、セレンのカギしっぽが
ふっと虹色に光りました。
それはほんの一瞬のきらめき。
でも確かに、空気が変わった気がしたのです。
まるで“何か”が動き出す―そんな予感を、
そっと知らせるかのように。





