Riding Memory|West Coast Brewing/Hazy Double IPA ― 晴天のターフで味わう、記憶に残る一杯 ―

episode 1
しっぽの違和感

セレンを可愛がってくれた
おばあちゃんを見送り、
少しだけ慌ただしかった日々も
ようやく落ち着いて。

ふっと、いつもの朝が戻ってきたころ。
その日は、ちょうどセレンの10歳の誕生日。

やわらかな光がソファにそっと差し込んで、
セレンはそこで
気持ちよさそうに目を開けた。
seren

……今日は、何かが違う気がする

いつもと変わらないはずのリビング。
でもふと見ると、窓がそっと開いていた。

seren

今日こそ……外の世界へ、
一歩踏み出してみようかな

外に出ると、足元をすり抜ける風が心地よかった。まだ見ぬ匂い、聞いたことのない音、くすぐったい土のにおい。それらが、セレンの胸を不思議とわくわくさせた。

おやおや、いつも窓から
外を見ていた娘じゃないか

わざわざ危ない外まで、
どうして来たんだい?

ふり返ると、そこには年長の猫が座っていた。少し警戒しながらもセレンは小さく頭を下げた。

seren

こんにちは。
今日はちょっと……

seren

勇気を出して、
初めて外に出てきたの

ふむ、それはえらいね。
外の世界はね、
広くておもしろい。

でもね、危険も
たくさんあるんだよ。
……早めに帰るんだよ

seren

ここって……
そんなに危ないの?

seren

ちょっと怖い。
でも、今は楽しいの

seren

だからもう少しだけ……
この世界を見ていたいな

seren

……おうちの人、
心配してるかな

そうだね。きっと、
心配してるだろうさ

でもまあ、気をつけておいで

私みたいに優しい
猫ばかりじゃないからね

ふと目を細めてセレンを見つめたあと、その猫はにやりと笑った。

……それにしても、
いいカギしっぽしてるねぇ

seren

カギ……しっぽ?
これのこと? 不便だし、
あまり好きじゃないんだけど……

ふふ、そうかい。
でもね、ただのしっぽじゃ
ないかもしれないよ

そうだ、ちょうどいい。
この先に、小さな空き地が
あるんだけど——

そこにね、物知りな猫が
住んでいてね。

前に、カギしっぽの話を
してたんだ。
会ってみたらどうだい?

seren

うん……行ってみたい!

こうしてセレンは、その空き地へ向かうことになった。雑草が風に揺れ、鳥の声が遠くから届く。まるで何かに導かれるように、足は自然とその場所へ向かっていた。

茂みの奥に、ふくよかな猫が気持ちよさそうにお昼寝している。

おばちゃん、ひさしぶり!

前にカギしっぽの
話してたでしょ。

ちょっとこの子のしっぽ、
見てやってくれない?

なんだい、いきなり来たかと
思えばお願い事かい

……それに、
あれはただ聞いた話だよ。

見たって何か分かる
わけじゃないさ

それでいいんだよ。
話してやっておくれよ

seren

こんにちは……

seren

その……しっぽのお話、
聞かせてください。お願いします

こうしてセレンは、ほんの少し前までは気にも留めていなかった「カギしっぽの物語」に、耳を傾けることになった。

それは偶然のようでいて、どこか運命めいた出会いだった。そしてこの日から、セレンの世界は静かに、
でも確かに動きはじめた——(②に続く)

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