勇気を出してお家の外へ飛び出したセレン。
ふとしたきっかけで、空き地の“おばちゃん猫”から、少し変わった話を聞くことになりました。

昔ね、この辺りに突然現れた猫がいたんだよ。10年くらい前の話だね。



よそから来たらしくて、人を探してるって言って、毎晩、公園で寝泊まりしてたらしいのさ。



人を……探してる猫?
セレンはびっくりして、おばちゃん猫の顔を見つめました。



でもね、理由を聞いても変なことばかり言うもんだから、
そのうち誰も寄りつかなくなったんだって。



その猫、言ってたんだよ。『私はもともと人間だった』って。



えっ……!



どうしても“自分の姿をした猫”に会わなくちゃいけない、って真剣だった。
カギしっぽが関係しているとも言ってたね。



それって……もしかして、
猫と……入れ替わったってこと?



そうらしいよ。
その猫が言うには―



“猫に話しかけられて返事をしたら、すっと入れ替わってしまった”……ってね。
セレンのしっぽが小さく震えた。



……それ、本当なの?



さあ、どうだかねぇ。でも、
最後にこんなことを言ってたよ。
偶然の出会いが、運命を変える



そう言って、
笑ってたんだけどね……
なんだか、怖くもあってさ。
風がそよいで、草むらが音を立てる。セレンの胸の奥が、ふわっとざわめいた。



その猫はそれから姿を
見せなくなった。
自分を探しに行ったのかもね。
空はすっかり夕暮れ色になっていました。
セレンは名残惜しそうに立ち上がりながら、そっと言いました。



おばちゃんに会えてよかった。
今日はありがとう。



いつでもおいで。
でも……外の世界は、
見た目よりずっと奥が深いよ。
気をつけてお行き。
家の前に戻ると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえました。セレンを見つけた人は、目に涙を浮かべて優しく抱きしめてくれました。申し訳ない気持ちと、ほんの少しの安心。でもその時、セレンの中に新しい感覚が生まれていました。



わたし、人の言葉が……
ちゃんとわかる



それに……
話すこともできるかもしれない
次の瞬間、カギしっぽがふっと虹色に光りました。まるで“何か”のはじまりを知らせるように――。