偶然が紡ぐ、秋のセレンディピティ旅の最終話『再び、扉の前で』(深呼吸の先にある暗がりは、次の物語への入り口)

もぐら駅から旅が動き出す

目次

偶然が紡ぐ、
秋のセレンディピティ旅 第1部

11月の午後。山あいの道を進んでいくと、ぽつんと建つ小さな建物が現れた。
山あいにひっそりと建つ、こぢんまりとした駅舎。とても駅には見えない佇まいだ。
けれど看板には確かに「筒石駅」とある。

山の斜面に残る紅葉。秋の終わりを告げる景色の中を進む
山あいにひっそりと建つ、こぢんまりとした駅舎
小さな駅舎の中は、静かに旅人を迎えていた。

「ここが面白いんだ」と案内してくれた友人ふたりが笑う。
その横で、私は半信半疑のまま扉を開いた。
待っていたのは、地中奥へと続く長い階段。
一段降りるごとに空気は冷たさを増し、湿り気が肌にまとわりつく。
思わず背筋がぞくりとする。怖い――でも、なぜか惹かれてしまう。

闇へと続く階段が、足元を誘う
冷気と湿り気が、旅の緊張を深めていく

かなりの段数を降りきると、突き当たりにひとつの扉があった。
その扉を押し開けた瞬間、目の前にいきなりホームが広がる。
無人の地下空間。電車の音もなく、ただひっそりと静まり返っている。

終わりの見えない影の回廊
矢印はさらに深く、地中の世界へと導いていた
階段の途中でちらりと見えたベンチ。わずかな生活の痕跡
長い階段の果てに待つ扉。ここから先は別世界
突然現れる線路。物語が色を変える瞬間
音のない静寂。地下に閉じ込められた時間

セレンが足元からするりと前に出て、ぴくりと耳を立てた。虹色にきらめくカギしっぽが、暗がりでふわりと揺れる。まるで「ここが旅の入口だよ」と告げるように。

見上げると遠くに小さな光。戻る道もまた長い
ようやくたどり着いた出口。日常へ還る一歩

湯沢から友人ふたりと相棒、そしてセレン。
三人と一匹の小さな旅は、こうして「もぐら駅」から始まった。

筒石駅は、新潟県糸魚川市にあるJR北陸本線の駅。
その独特な構造から「日本三大モグラ駅」のひとつに数えられている。
深い地下にホームを持つ駅は全国でも珍しく、訪れる人を非日常の世界へ誘う。

筒石駅の位置は下の地図からご覧いただけます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次